「おい七夜ぁ〜これ教えてくれ〜〜」

「またか??これは・・・」

「志貴頼む・・・こいつはどうすれば良い??・・・」

「だからな四季これは・・・」

「七夜ぁ〜」

「だぁーーーー!!もう少し自分で考えろーーー!!」

志貴の怒号が放課後の教室に響いた。

十二『青春の日々』

一幕『補習』

「そうも大声出すなよ七夜」

「そう思うんだったらもう少し解く努力を行え。まだ四季の方がましだぞ」

すっかり不機嫌そうな表情の志貴が有彦にそう言う。

「まったくだ、おい有彦、志貴がへそを曲げたら俺達夏休み中補習だぞ」

「うぐ・・・」

「まあ志貴辛いとは思うが我慢してくれ」

「まあ、今日は別に予定は無いから良いけどな」







事の発端は数日前の期末試験の結果発表から始まる。

答案用紙も返され学園内には各学年上位五十位が表示されていた。

「おい・・・七夜がトップかよ・・・」

「本当だ」

そう一年生トップは志貴でそれも全教科満点と言う成績を叩き出した。

しかし、当の本人はいまいち何故騒ぐのか判らない様であった。

口がさない連中の中には『見ろよ。あの余裕ぶった表情・・・』・『トップを取るのが当然って面してるぜ』と陰口を叩く者もいた。

しかし、実際はそうではなかった。

「志貴ちゃん??あんまり嬉しそうじゃないけどどうしたの??」

結果を見ても特に感情を露にしない志貴に琥珀が不思議そうに尋ねた。

口には出さないが翡翠やシオンも首を傾げている。

「いや、今更トップだの秀才だのと言われてもピンと来なくて・・・」

その言葉にアルクェイドが思い出した様に相槌を打った。

「そうだよね〜今まで爺やの所で全部習った所で褒められても嬉しくないか〜」

「そう言う訳じゃないけど・・・つくづく思うが師匠達のペースが速かったのか、それともこっちが遅いのか判断に困る・・・」

「では・・・志貴は一体何処までの学習を進めてきたのですか??」

「俺が帰る時には・・・確か先生曰く『これなら大学院クラスでも楽勝で合格できるわ』と言っていたな・・・」

その何気無い台詞に翡翠達や聞くともなしに聞いていた周囲の人間達は絶句した。

そう、『千年城』での青子・ゼルレッチ・コーバックの個人授業のレベルは相当量に高いものだった。

当時九歳の志貴は一年目で小学校クラスを全て、二年目では中学、三年目で高校を、四年目、そして最後の五年目には大学及び大学院の教えを叩き込まれ(冗談抜きで叩き込んだ)今日に来ている。

偶に、勉強か虐待か判断が付かなくなることもしばしば・・・いや、多々あった。

ある時は文法を一つ間違えただけで『永久回廊』に封印されかけた。

ある時は問題を一つ間違えただけで宝石剣の斬撃から身を守らなくてはならなくなった。

更には時には破壊魔術がスコールの如く降り注ぐ事もあった。

だが・・・それも今では良き思い出と言える・・・だろう・・・きっと。

志貴にとっては高校一年クラスの勉強は『全員出来て当然』の感覚でいたのに過ぎなかった。

特に語学に関して言えば英語はもちろん・フランス語・イタリア語・ドイツ語・中国語・ポルトガル語・スペイン語・ラテン語・ハングル語と、多岐に渡ってマスターしており(しかし、これでも志貴に語学を教えた者は不満気味である)、今更英語の授業など全授業寝ていても満点を取れる。

現に志貴にお灸を据えようとした教師の内半数が、逆に返り討ちにあっている程である。

それであるので、嬉しくない訳ではないが、今更その件で褒められてもしっくりこない。

と、そこへ

「おい七夜〜」

この世の絶望を一身に背負った様な表情の有彦がやって来た。

「どうかしたのか??」

「頼む・・・俺に勉強を教えてくれ・・・追試なんだよ・・・」

「ああ、なるほどな・・・取り敢えず貸し一つな」

「ああ、取り敢えず後日翡翠ちゃん辺りとデートでも・・・ぐはっ!!」

「何でお前に更に貸しをつけなきゃならん。どつくぞ」

「言う前にどついてどうするんだ・・・」

「取り敢えず追試は・・・」

「来週だ」

「じゃあ今日の放課後から始めるぞ」

「あいよ〜」

と、そこに思わぬ人物が飛び込んできた。

「志貴!!」

「四季??どうしたんだ?お前??」

「俺に勉強教えてくれ!!」

「はあ??」







「しかし秋葉もきついな・・・『一位以外の成績は認めません』って」

簡単な小休止に志貴はそう言って苦笑する。

「まったくだ・・・」

そう言ってぼやく四季の成績は低いものではない。

学年中、五位の成績ならば上出来も良い所だ。

しかし妹の秋葉にとっては納得出来るものではなかったようだ。

結果を耳にするや四季に向かって、

『お兄様!!遠野当主として恥ずかしくないのですか!!強制的に追試を受けていただきます!!』の鶴の一声で追試となった訳である。

しかも、これで秋葉が納得いかなければ、四季は遠野家主催の補習を夏休み中ずっと受けなければならない。

「しかし、噂に聞いたが志貴お前何ヶ国語マスターしたんだ??」

「えっと・・・少なくともよほどの原住民の言葉で無い限りは、不自由無く生活出来ると思う」

「何でそれだけマスターできたんだよ??」

有彦も話に加わった。

「えっとな・・・まず英語をマスターした後、俺の語学の先生・・・俺は『教授』って呼んでいるんだが、教授からラテン語を詰め込まれた」

「ラテン語??何でそんな所から?」

「教授の話だと今のヨーロッパの言語の殆どはラテン語から派生したらしいから、文法は同じだし単語も意味は似通ったものだから比較的楽に覚えられるって」

「だからってなあ・・・」

「はあ・・・つくづく恵まれているなお前・・・」

四季と有彦は顔を見合わせて溜息を吐く。

どうもこの二人も馬が合う様だ。

時折コンビを組んで馬鹿をやっている。

「さあ、取り敢えず続きをやろう。ここで愚痴っていても仕方ないだろう??」

「そうだな・・・」

「さてとやるとするか・・・」







そして、追試当日のぎりぎりまで志貴達三人は(正確には有彦と四季のみ、志貴は監督する立場)勉学に勤しむ日々が続いたのであった。

そして、追試も無事に行われその翌日。

「七夜〜助かったぜ!!」

「ああ、どうにか補習は免れたんだってな」

けらけらと笑う有彦に志貴は苦笑する。

「これで夏休み思う存分遊びまくれるってもんだ!!」

そう言って笑う有彦、そこに四季もやって来た。

「志貴!!助かったぜ!!」

「四季どうだった??」

「秋葉も充分に納得してくれた。お前と同じ全教科満点だったからな」

「さすがにそれ以上は不可能だからな」

「ああ」

笑い合う二人。

「で夏休み、お前はどうするんだ??」

「まあ、別荘なりで過ごす事になると思うが」

「かぁ〜別荘!!おぼっちゃんだね〜遠野は」

さらりと出て来た言葉にすかさず有彦が嫌味を言う。

しかし、それは悪質なものではなかった。

「そう言うお前は??」

「俺はいつも通りパック旅行でぶらり旅とバイトだな。で、七夜お前は??」

「俺は先生達に挨拶しに行く以外は実家に戻っているかな??」

「まあ、お互い有意義な夏休みと行こうか」

「「ああ」」

間も無く終業式、夏休みは直ぐそこまで迫っていた。

二幕へ                                                                                         十一話へ